通り魔や強盗傷害を繰り返しながら生きている青年、伊豆見翔人の物語。殺人まで犯してしまったかもしれないという少しばかりの不安と共に、山奥にある山村までたどり着いた伊豆見がある老婆と出会う。
老婆や村の人たちとの田舎生活を過ごすうちに、伊豆見の心にも変化が表れ始めるが犯してきた犯罪から目を背けることは不可能だった。
感想
すごくよかった。このお話。やっぱり乃南さんの小説は素晴らしいなぁと思う。
「人を殺したかもしれない」と逃げに逃げ、山の中で一晩過ごす時の描写の仕方など、まるで自分がそこで息を潜めているような気さえした。
当たり前のことなんだけど、「窃盗」も「通り魔」も「障害」も許されることではない。そういった生活に身を置くことに、親のせいだのなんだのと理由をつけて生きる伊豆見には溜息しか出ないけれど、気持ちは痛いほどわかったりもする。
一人で生きるしかなかった者は、誰かを必要とすること自体拒む。それが自分の弱さに繋がってしまうと思うから。
伊豆見と自分自身がすこしシンクロする部分もあって、「うんうん」と頷きながら読んでしまった。
例えば、伊豆見の母親が夫(父親)のことや姑のことを悪く言い続けてきたせいで、会ったこともないその人たちのことを伊豆見は「悪い人」だと思い込んでしまっていたかもしれないといった内容の部分とか。
それにしても、ここに出てくる「おスマじょう(老婆)」と「シゲ爺」にはほっこりする。
「おスマじょう」については、どこがどういう名前なんだろうと思ったけど結局そこには触れられなかった。やっぱり「スマ」が名前なのかな・・・(‘ω’)
この小説は、どうしようもなく孤独な伊豆見の物語ではあるんだけれど、その伊豆見を取り巻く人たちにもまた悲しく寂しい物語がある。
年も違えば生きてきた場所も違うけど、でも、多かれ少なかれ人はみんな色んなことに悩んで生きてる。
ぱっと見ると、犯罪者が山村であったかい心に触れて改心していくお話で済んでしまいそうになるけど、そうじゃない。
伊豆見やおスマじょう寄りで見ればそれでハッピーエンドかもしれないけれど、やっぱり犯罪は犯罪。傷を負わされたほうは「ふざけんなよ」ってなると思うんだ。
色んな方向からの、色々な見方が出来る、考えさせられる物語だと思った。
この小説の中の好きなフレーズがある。
しょうがねぇことも、あるにゃあ、ある。だが、それと、どうでもよくなるっちゅうんとは、別もんばい
はい、全くもってその通り。
しゃぼん玉の映画
小説も良かったですが、この役者さんたちが作り出す柔らかい空気感が素晴らしい。
「坊はいい子」と話しかける市原さんの声のなんと優しいこと!こればっかりは「文字」だけでは味わえないですからね。
小説はちょっと苦手という人には、こちらの映画でぜひとも見ていただきたい作品。
この本の評価は?
ストーリー | [5.0] |
感情移入 | [4.0] |
感動 | [4.0] |
ラストの展開 | [3.0] |
総合 | [4.5] |
ココに惹き込まれた!
どうしておじいちゃんおばあちゃんの言葉というのはこんなに心に沁みわたるんでしょうね。。
ココが気になる!
でも個人的におスマじょうには笑っていてほしいので、安心したともいえる。
次回読みたい乃南 アサの作品