小説に出てくる女刑事って「ちょっと影があってカッコイイ女」が王道じゃないですか?
個人的に、大好きな女刑事はアンフェアの篠原涼子が演じる雪平なんですが・・・
今日は、野沢 尚さんのリミット (講談社文庫)を読み終えたのでレビューしたいと思います。
雪平に比べると、この小説に出てくる有働公子という女刑事はちょっとヤボったいんですね。
母親という設定なのでそれ故の弱さがかなり描写されていて、しかも庶民的です。
雪平も娘を助けるシーンがありますが、すごくかっこいいんです。
しかしこちらの有働は、犯人グループと戦う鬼気迫るシーンもなんだかいま一つパッとしない。かっこよくないんです全然、そこらのおばちゃんが悪者に必死に立ち向かっている感じさえ受けます。
でも、それが現実なんだろうなと思う。刑事だからってカッコイイばかりじゃないし、自分の子供をさらわれているんだから必死になるあまりミスも犯してしまったり。。
感想
「幼児誘拐」「臓器売買」「臓器移植」「人身売買」
これらのキーワードに酷い嫌悪感を覚える方にはおすすめできない本です。
私的にはとても面白く(というと酷く非人道的な言い回しにさえ聞こえるほど打ちのめされる内容です)スピード感もあり、久しぶりに「早く続きが読みたい!」と思った小説でした。
母親が子供のために必死に戦う姿がただただ「かっこいい!」と思う人もいるかもしれないけれど、私的にはその姿はなんとも痛ましく映りました。
ぱっと見はそりゃカッコいいだろうけど、その心の中って言ったらとんでもない感情の嵐ですよ、きっと。。
なかなか助け出せない情けない自分、警察官でありながらスマートに交渉一つできない自分、犯人のいいように動かざるを得ない弱い自分・・・そんな感情の中で我武者羅に進み続けるしかない状況。
かっこよくなんてないですよ、全然かっこよくなんてない。そんな姿が「カッコいい」なんて、なんだかとても安易で他人事のように思う。
いや、まぁ、小説なんだから他人事で当たり前なんですけどね。
この小説の評価を見ていると大体が上にあげたキーワードに注目されているんですが、私個人としては「女」がテーマの小説だと感じました。
一人はもちろん主人公の女刑事、有働公子。
一人は犯人グループの主犯、沢松智永。
そしてもう一人は娘を誘拐された母親、楢崎香澄。
それぞれに信念がある。それぞれに大きな想いを抱えて生きてる。
それが世間的に「正しい」か「正しくない」かなんて考えることは、この小説においては必要のないことだと思った。
それくらい、見事。女たちは本当に見事に「自分」を生きている。
個人的には智永のラストの描き方が秀逸だったと思う。女、だからこその弱さ、狩る者が狩られる側になる瞬間、瞬時にとった行動と敗北。
とにかく最後まで目が離せない、完成されたストーリーだと思います。
内容的には闇の子供たち (幻冬舎文庫) [ 梁石日 ]をソフトにした感じかなと。
こちらは同じ「人身売買」でも描写がかなりきつく、初めて読んだときはとんでもない衝撃に襲われました。
でも、すごく惹き込まれて一気に読んでしまった作品でもあります。興味のある方は一度読んでみることをおすすめします。
リミットのドラマ化
なんとドラマ化されてたんですね!でもなぜかVHSしかない。(´-∀-`;)
内容が内容だけに当時かなり批判されたらしいので、その辺もあってDVD化はしないんでしょうか・・・
残念です。見てみたかった。何気にキャストが豪華なんだもの。
この本の評価は?
ストーリー | [5.0] |
感情移入 | [3.0] |
感動 | [3.0] |
ラストの展開 | [5.0] |
総合 | [4.5] |
ココに惹き込まれた!
女たちだけでなく他の刑事や犯人たちも見事にキャラが立っている。自分は誰に共感するか?を探りながら読むとより一層面白いかもしれない。
ココが気になる!
救いの手なんてなく、どこまでも後味の悪い作品で終わらせても良かったんじゃないかと思う。
次回読んでみたい野沢 尚の作品
今回初めて読ませていただいた野沢 尚さんの作品。
本当に面白かったので次回作を期待したい!と言いたいところだったんですが、なんと2004年6月28日に亡くなられていたのですね。とても残念です。